ウイズダムマネジメント

明日を考える経営

- 経営者・幹部へのアドバイス No.31 -

企業は環境適応業 〜 新しい技術の開発 〜

 1.経営者からの新年の決意のメール
 ある経営者から新年のご挨拶のメールを拝受しました。その企業はプラント機器メーカーですが、不況による落ち込みを覚悟し、2009年度経営方針と新5カ年経営計画を発表されたそうです。メールには、
「世界同時不況の余波は相当な影響を顧客に与え、今年から2010年にわたって当社の事業環境に大きな影響を与えそうです。当社は売上の大幅なダウンを覚悟しています。今年からの2年間は、備えの時として新5カ年計画の実行に、積極的にトライし、前向きな準備・鍛錬のプログラムを実行致します。米国発の金融不況をバネとして乗り切るための準備の時としたい計画です。経営者である私自身が先頭に立って模範を示す時であると捉えております。身を引き締め節度ある行動を取っていきたい所存です。
旧年までのご指導を得て、お陰で幹部管理者始め社員も風通しのよいコミュニケーションの取れた好ましい企業文化が形成されつつあると実感できております。同時に、この3年間の経営成果も過去にない好結果でした。社員にも十分に配分できた満足を共に享受しております。このリセッションは、好成績の満足から一転して、耐久レースに入りました。幸い当社が今まで築いた製品・人材・設備・内部留保を活用して、来るべき新しい時代に存続と継承発展できる会社に変身していく決意をしております。<BR>これから先のことは不透明で予測さえ確かにできませんが、私も社員も共に力を合わせて、ご指導いただいたチームワーク力を発揮していきたいと年頭にあたって社員に挨拶しました。本年も宜しくお願い申し上げます。」
と結ばれてありました。

経営者の決意が伝わってくる新年の決意でした。しかも、決して縮こまるのではなく、不況をバネに次のステージではオンリーワン企業を目指して飛躍していくぞという決意と目標を管理者の方々と共有されているご様子が伝わってまいりました。メール文を公開することは了解を得ておりませんが、この不況で今、悩み、不安を覚えておられる製造業の経営者が沢山居られます。日本はモノづくりの国です。決してモノづくりが廃れるわけではありません。米国のような金融オンリーで強欲で自社・株主の短期的利益しか求めない、しかも全世界に金融バブルの付けを回した国を手本とすることなく、また、がっかりすることもなく、日本のモノづくりを活かして行きたいものです。その意味で戴いたメールが製造業の皆様の励ましになるのではと思い、勝手な使用をお赦しください。
 今回の不況で暗い後退の話ばかりで、企業の経営者のことを思いますと沈みがちになっていたのが、1社の中小企業社長様からの新年のご挨拶メールで、明るい気持ちにさせられました。ありがとうございます。勇気と克服力が与えられました。

 2.ビジョンを示す
 このメールご挨拶のプラント機器メーカーの経営者は、毎年、心血をプランニングに込められビジョンを示されたことは、幹部管理者の方々に染み渡り社長様の想いが自分の考えと同一化されるまで醸成されたものです。景気のよい時、経営者はどのように舵をとり、幹部管理者に檄をとばされてもよいでしょうが、普段より、管理者・社員にビジョンを示し、計画書で目標及び、アクションプランを明確にされ、ベクトルを一致させ、大半の社員に共鳴が得られるように企業文化を醸成することに努力をされてきたことは不況に至って始めてその真価・効果があらわれました。それが規模に関係なく強い企業・強い社員であろうと思うのです。
 この企業は採算のよい製品に絞られ、人・設備・金を注入されて来ました。強欲ではなく、お客様の喜ばれる、必要な製品を開発し改善されることを積み重ねて来られました。この強い製品があることです。その結果は、社長様の経営方針の明確化と高付加価値戦略を明確にされた計画書の存在です。幹部管理者が理解され、社員が理解し、製造はムダ排除による減価削減と納期短縮の実践、販売は市場より優良個客に的を絞った増客を実践され、個客への提案営業を地道に展開されました。

 3.増客のための「顧客の創造」
この不況(リセッション)は1〜2年が底になると考えておられる経営者も多いです。
産業の需要減退は手の打ちようがありませんが、その為に過去の実施された体質強化であり、自己資本比率の向上の目標であったと思います。企業の最大の資産は、経営者の信念と戦略です。それと共に温存された優秀な役員・幹部管理者・社員の方々です。
この経営資源がある限り、リセッションは乗り越えられます。次のステージはより強い体質での発展とモノづくりチャンスが待っております。
 備えの時として、今、仕込まねばならないことは何でしょう。
それはP.F.ドラッカーの名言「顧客の創造」です。彼によれば企業の目的は顧客の創造であり、イノベーションであると断言しております(著作「現代の経営」上下)。企業の発展は「増客」によって実現するものです。では、増客は何によって成るかと言えば、お客様が喜ばれるモノの提供です。つまり、顧客の望むものを創るということです。今の仕込みとして、新しい技術の開発、新製品・サービスの開発です。この開発動機は顧客の要求によって行う市場合致型の製品開発です。売り先が決まっている、開発したモノが先に引取先が決まっているモノをつくりです。個の客、個客が完成をせかせてくるニーズの新製品を創ることが大事です。このような製品は、商品企画でも同じでしょうがコラボレーションによって生み出され、どちらが主体か分からないようなやり取りで産みだされる製品です。これが増客につながるのです。自社の中核技術(コアコンピタンス)を活かして、無ければ技術の使用権を買い取り、技術を組み合わせてでも、顧客のための新しい技術をつくりださねばなりません。これが不況下の仕込みです。時間もあります。設備もあります。作業者もいます。お金は工面しなければならないかも知れません。ロバート・H・シュラー牧師が言ったように「お金がないのが問題ではありません。アイデアがないのが問題です」。
中小企業は、個客と一体になって、コラボレーションによる市場合致型の新製品開発をすることが存続・成長のための唯一の施策です。顧客も生き残らなければならないからです。或いは消費者と一体になった商品企画開発です。

 4.企業は環境適応業
 なぜ、このような理不尽な不況が来るのか?
人間のおごりに対する警告です。人の中に潜んでいる強欲がどんどん大きくなり、やがて、ハリーポッターの世界のようなドレゴンに化けて人間を食い物にしてしまうのです。
 企業は、経営環境適応業ですので、適応できない企業は敗退していくでしょうし、適応できる企業はより強靱になって甦るでしょう。
自然界には、適者生存の生物の闘いがあります。環境の厳しい変化が生物を進化させるのです。 哺乳類の先祖は昔、大恐竜時代に戦々恐々として小さく生き残ってきたといいます。恐竜は子孫の卵を産み孵して残して来ました。しかし、より過酷な環境変化に対応できずに滅んで、化石を残しています。
 一方、哺乳類は小さかったが卵ではなく、創造者から胎盤を新しく与えられ、子孫を自分の体内で育てるという戦略で環境の激変に耐えて今日の繁殖・繁栄を得ています。
 経済産業社会も自由市場での厳しい闘いがあります。中小企業の規模は小さいけれども、それぞれの企業には他にない特徴・強みがあります。 今、それを自社の中に見いだし、育て、創りだし、顧客の望んでいる新しい技術・新製品を創りだしていき、存続と成長を実現していく時かと思います。 不況とは、それが試される時でもあります。その中心は、人です。中小企業といえども、ピラミッド組織の弊害を越えて、経営者のお考えと一つになるために、 本心から自由に発言しても恐れのない社内風土、自由闊達な意見の交換、「自分が社長ならどうする」と主体的な考えを、それぞれの垣根を越えて発言し、チームワークが発揮できる創造性を尊ぶ組織風土をつくる時、備え・仕込みの時です。

(2008.1.7 長谷川好宏)
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