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レポートNo.H-011

企業の目的と製造部門の役割



 1.企業の目的は第1に「顧客の創造」である、では第2は?
(1)目的(ゴール)の明確化の重要性 
  1. 目標をめざすときに、私たちの所属する組織は大きなエネルギーを発すことができます。 企業は経営目標を明示しますが、それは組織体の構成員が一つの方向にムダなく行動して結果を出すためです。 同時に、その目標は企業にとって最適な目標でなければなりません。 もし、的はずれであれば、企業の存続と発展は保証されないでしょう。
  2. 目標の設定の重要性は、個人についても同じです。あなたの仕事の目標(ゴール)は明確になっていますか。 明日の仕事のゴールは明示されていますか。今週・来週の仕事のゴール明示はできているでしょうか。
    自分の仕事のゴールが明示されてはじめて、その達成に全力投球します。 そして、達成したときに達成感と満足感が得られるのです。
  3. 製造業の中心命題、ゴールは技術を核にした新製品開発です。
(2)企業の目的は、顧客の創造です 
  1. 名著「現代の経営」でP.F.ドラッカーは、事業の目的は「顧客の創造」ですと述べています。 企業のゴールは顧客の創造であり、利潤はその結果なのです。この事を35年前にドラッカーは喝破していたのです。 日本はバブル崩壊後、不況に苦しんでいます。これは旧来品の市場が成熟したことにより、消費が伸びないという構造的要素に起因したものです。 多くの企業が低迷しているのは、現況下、「顧客が創造されていない」ことにつきるのです。 彼の言葉「顧客の創造」ということは、マーケティングの重要性を言っているのです。 そして、今日の日本に当てはまるメッセージでもあります。
  2. 顧客が何を求めているかがポイントです。つまり、マーケティングに直結したモノづくりが必要なのです。
  3. 製造業のトップおよび、その構成員がいつも覚えておく視点は、経営環境への適応です。
  4. 企業の目的の第2は「イノベーション」です。


 2.イノベーション(革命)とは何か?
  1. イノベーション(革新)とは何か?ということですが、このことを上手に説明してくれている人がいます。 水野博之氏(高知工科大学教授)です。「いま既知の技術やモノ、知恵の組み合わせです。 足袋とゴムの組み合わせが地下足袋です。米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が創り出した基本ソフト(OS)も、 新技術と呼ぶべきものはなく、既に誰かが考えていた技術の寄せ集めでした。 その集めて結びつける力こそが、イノベーションだったわけです。」と言っています。
       (水野博之/高知工科大学教授 日経ビジネス 2000.4.24 号 p.1 有訓無訓)
  2. このように、イノベーションとは、新発明をいうのでなく、従来の積み重ねに創意工夫することにより、革新を起こすのです。 水野博之氏は「自分の持っている得意な知識にほかの知識をうまくつなぎ合わせることがイノベーションです。」と言い切っております。
       (水野博之氏 日経ビジネス前掲書)
  3. 新機軸を生みだすイノベーションが市場のニーズと結びついたときに、爆発的な需要創造も起こるのです。 結果論でいえば、携帯電話がそうです。需要創造がイノベーションによって行われていないところに現況の不況が長引いています。 アメリカの好調はイノベーションが I Tを核として波及しているからです。
  4. 製造部門で仕事をしている、あなたにもイノベーションを生み出せます。 企業にとってイノベーションがいかに重要であるかを強く意識すること、それによってあなたの知識と好奇心から他の知識や知恵に触れたときに、 仕事の中に新機軸(アイデアや技術)のひらめきが生まれます。 また、職場で一所懸命に改善と取り組んでいるときに、改善の連続の次にドラスティックなイノベーションが起こるのです。
  5. 企業の目的は利潤ではなく、それはイノベーションによってもたらされる結果なのです。 単純に、生産高−製造原価=利益 という公式も大切ですが、原価引き下げと同時にドラスティックなイノベーションによる価値創造の方がより大きな利潤を企業にもたらします。 旧来のモノにこだわっているだけでは付加価値が生み出せないのです。
  6. P.F.ドラッカーはマーケティング活動だけでは、企業が成り立たない。 「イノベーション(革新)」が必要だと説いています。 また、「イノベーション(革新)とは、よりよく、より経済的な商品ないしはサービスを創り出すことである」と言っています。 このように、イノベーションとは、よりよい新製品やサービスを創造することであり、製造部門が第一に果たすべき役割といえます。





 3.売れない製品があふれているが買いたいモノがない
(1)売れる法則は通用しない 
  1. イトーヨーカードの鈴木敏文会長は、「消費購買力はぜんぜん落ちていない、消費は決して減ってはいない」と言っています。 「売れないということは、お客様が望んでいるような商品を、我々が提供できていない」と結論づけています。
  2. 第一線を譲られた親しい元経営者の夫妻が梅田のデパート、ショッピング街を久方ぶりに回ったが、「これは…と」手にとって買いたいものがなかったと言われていました。 「たいがいのモノは家にあるので」ということです。お金はあるのに、手を出して買うものがないという状況が消費不況をもたらしていると言えます。 確かに、失業や所得の減少はあるのですが、消費を引っ張ってくれる層が動いていないのです。
  3. 生産財においても同様です。需要と供給のアンバランスはあるのですが、生産者は需要減といえ、 ある水準の生産はしているのですから、一律には行かないけれど毎月一定の資材購買をしているのです。 そこへ、「見積させて下さい」「サンプル購入してください」という売り込みをかけるので、「君のところは、幾ら引いてくれるのか」ということになるのです。 「この顧客では、○○製品を造っておられるから、この製品コストダウンには、半加工のVE提案をしょう」 あるいは、「ユニットごとの組立までさせて頂くと、○○円で納入が可能ですよ」というような「お客様の利益を極大化する」提案がなされていないのです。 顧客自らも気づいていないようなVE提案をしていくことが求められています。 つまり、顧客側で顕在化したニーズばかりを追いかけているのです。
    ここに、生産財営業の値引き競争による赤字営業が生まれています。
(2)顧客が買ってくれるモノを創る 
  1. 顧客が購入してくれるモノ、注文してくれるモノをメーカーは創り出していないのが今日の不況です。 モノ不足ではなく物が家庭にあふれる時代、大量の廃棄物がでる時代です。 旧来の製品・商品は成熟社会では、消耗品の補充か、更新需要しか発生しないのです。 クルマも買い換え周期が延びており、日本の狭い国土では飽和状態です。
  2. 製品メーカーは、さらにコストダウンし、かつエンドユーザーの難しい要求に応えたいと考えていますが、 協力工場や売り込みにくる業者は、メーカーが望んでいるような革新的な、または画期的なアイデアの提案はないのです。
  3. ソニーが予約販売したロボット犬が約25万円と高価にかかわらず、その日で完売してしまったことは記憶に新しいでしょう。 高くても人が欲しいと思うモノを創ることがポイントであることを教えられました。 過去にない、新たなアイデアの実現が大切であり、顧客のニーズ探索が必要です。
  4. TOTOのシャンプー・ドレッサーの成功は最初から意図されたものではありませんでした。 ハンカチや下着などの小物洗いに便利という顧客の声を元に大型ボールの洗面陶器の開発が行われ、売り出されました。 ところが、購入者の何人かから、娘が通学や通勤前に髪をシャンプーしているという声を聞くようになったのです。 発売前には予想もつかなかったことが、偶然にも「顧客から生まれた」のです。 TOTOは、この商品をシャンプー・ドレッサーとして本格的に売り出しました。
 4.顧客の欲しているモノづくり
(1)不況下、売れているモノ 
  1. 不況の中でも売れている商品があります。その筆頭は携帯電話です。ついに固定電話の設置台数を上回りました。 短期間に普及した商品としては、他にないでしょう。今では若者が電話機をコミュニケーションツールとしての新たな使い道を発見しています。 さらに、新しいニーズをとらえてモバイルの端末として進化しています。 NTTドコモの「iモード」はインターネットの普及と電子メールのニーズを取り込んだと言えるでしょう。 ソニーは「PlayStation2」の最も強敵として警戒しているのが、ドコモの「iモード」なのです。それほど革新的なアイデアなのです。
  2. 買い換え需要のクルマでも1998年に登場したトヨタのプログレ(小型高級車というコンセプト)が310〜350万円にもかかわらず売れています。 売れるクルマは「デザイン」「燃費=環境」がキーワードと言われています。−>「ヴィッツ」「ファンカーゴ」、ハイブリッド車「プリウス」の発売。 本田技研では、「オデッセイ」でしょうか。
  3. TCM(旧東洋運搬機)が前進・後進の他に真横に走るフォークリフトを創り出した。倉庫のスペースが10%以上削減、回転半径ゼロで作業効率が向上するとのことです。
(2)顧客の欲しているモノ 
  1. サービス業になりますが、顧客を満足させている企業は、東京ディズニーランドでしょう。 「ディズニー100周年記念」パレード4/14の熱気と報道プレスの数は不況を感じさせませんでした。 お客様を感動させる「場の提供」を創り出すことにより、リピーターを生み続けているのです。 来園者をゲスト(賓客)と呼び、従業員をキャスト(出演者)と呼んでいることにディズニーランドのコンセプトの一端がうかがえます。 ゲストに対して園内のあらゆるものが語りかけ歩み寄るのです。 キャストに出会うときそれは魔法の瞬間なのです。顧客の欲していることを心得て演出されているのです。
  2. プラスチック廃材と建築廃材を粉砕し、特殊樹脂を加えて、樫の木と変わらない木を創った中小企業があります。 アイン・エンジニアリングという東京の企業で、アメリカの展示会でも300社から注目を浴び、引き合いが来ている企業です。 ミサワホームに採用されるとのことです。現場のゴミと環境の問題を解決している一例です。
  3. ミカンの質を瞬時に計測し、おいしさを分別する柑橘類選別機を製作し、1台10億円の装置を全国の農協へ納入している中小企業があります。 松山市の石井工業で売上59億円、市場シエアは80%と大手も顔負けです。
  4. 松屋銀座店のオリジナル長傘が売れています。「子供と入っても雨に濡れない」「車の中の常備傘にジャンプ傘は便利」 というお父さん用の安く大きい長傘(3000〜8000円)が売れているのです。 傘にも顧客の欲しいモノを取り入れている実例です。
  5. 金属(鉄・アルミ)の産廃業者を診断した時、こんな小さな会社が新しいタイヤを開発したことに驚きました。 フォークリフトのタイヤが金属片でパンクしてしまう。タイヤメーカーはパンクしないリリッドタイヤを作っていますが、 1ケ10万円以上する高価なモノで、フォークリフトの乗りごこちも悪い。この会社の社長は、フォークリフト用の二重構造の新案タイヤを創ったのです。 日本で設計し、実験し、タイヤの金型をつくり、中国のタイヤメーカーに外注しました。 フォークリフト・メーカーへ試作品を提案し、耐久テストもしました。その結果、精度と効用が認められました。
 5.高付加価値の製品づくり
(1)高付加価値とは 
  1. 生産高から材料費や外注加工費を差し引いた残りの金額を付加価値と呼びます。 付加価値を獲得することにより、工場の人件費・製造経費・減価償却費・税金・利益などの原資になります。
  2. 付加価値が高いかどうか、経営指標として、付加価値率を使います。式は、

    です。50%以上は高付加価値です。技術力のある企業は高いし、精度の高いモノ、特許製品などは高付加価値です。 ついでに、高付加価値戦略の工場は1人当たりの付加価値、つまり労働生産性が高いのです。 1,000万円/年以上です。式は、

    です。
(2)本物づくりによる高付加価値品の創造 
  1. 顧客が欲しいと思うモノ、それは表に現れていない隠れたモノであるかもしれない。 そのような製品を創り出すことです。
    先日、経営相談に来られたベンチャー企業は、セラミック用平面研削盤の切削水から油分を分離する小型装置を開発されたのです。 簡単に油分を除けるので大手の工場から引き合いが来ています。今まで、できなかったこと、困っておられることを解決してあげることが製品になるのです。 勿論、特許を6件取得中で、ドイツにも輸出できるか調査中です。 1台、1千数百万円するモノが売れています。
  2. 油圧ピストンポンプ用の「ローターリーグループ」(回転力発生装置)という油圧機器部品の専門メーカーであるタカコ精機は日米市場の75%以上のシェアを押さえています。 顧客の欲しい本物は売れるという証明です。
  3. T社は製鋼メーカーが開発したDP2というバネ鋼の板を研磨すると鏡板のようになるということをメーカーから聞きました。 某ステンレス製のトイレ便器を作っている会社は、刑務所用にガラス板を使わない(危険なので)ステンレス板を磨いて使っていました。 しかし、すぐに鏡が曇ってしまい困っているとのこと。そこで、DP2を提案し、採用されたのです。 顧客に喜んでもらったことをバネに、同じ悩みを持っていた高速道路パーキング・ステーションのトイレに割れない鏡を提案しました。
  4. 携帯電話やパソコンの小型2次電池に使われるニッケル水素電池用正極材(プラス極)を独創的な製法で球状の粒にするもので、 電池の性能向上と電池の製造コストも安くできる革命的な製法を開発したのが、福井市の田中化学研究所です。 市場シェアは70%です。トヨタのハイブリッド車「プリウス」の電池にも採用されています。
  5. この不況下、モノを安く造ることも大事ですが、お客様が望んでいる本物づくりが忘れられています。 高付加価値のモノづくりを創造することが、今ほど求められている時はありません。 イノベーションと顧客の創造ができる企業が21世紀型の企業といえます。

あなたの企業も自社のコア・コンピタンス(中核技術)が何かを見いだし、新たな挑戦をはじめてください。 その時、あなたの製造部門の役割は何でしょうか。 そして、企業の目的を知ったうえで、現場のモノづくり、改善にチャレンジしていってください。 必ず、それはお客様のニーズにつながっていくはずです。
2002.4.15
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組織を強くするのは「人」です  人材の育成に
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