営業担当者の営業力倍増計画
その(2)
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株式会社ウイズダムマネジメント 中小企業診断士 長谷川好宏 |
工場の生産性向上やコストダウンについては、経営者の関心も高いが、営業の生産性向上策を採ることについては関心が少ない。
大概は営業マネジャーに任せきりのところが多い。
しかし、企業の存続、成長をもたらすのは営業力であり、その源泉は営業マンです。現下の経営環境で堅実な経営、着実に成長されている企業を見ますと、
営業組織の強化と営業マンの教育訓練に怠りがなく、経営者は企業の発展を左右する営業マンの生産性について強い関心を持っています。
中堅・中小企業にとっては、営業構造の改善なくして企業の将来はありません。
営業マンの生産性とは、単位時間当たりの付加価値(粗利益)が大きいことを言います。一般には付加価値の全体額で判定されてしまい、単位時間当たりが不明確です。
このために、月間目標を達成してしまうと、後の営業時間はずさんに費やしてしまう営業マンが多いのです。
営業マンの生産性は図表1の式のように「稼働率×営業パフォーマンス」ですから行動は自己管理が必要です。
[図表1:営業マンの生産性向上]
既存客を対象とするルートセールスの営業マンは既存顧客を巡回定期訪問の形で、営業活動を行います。
一年中同じことをし、注文をもらい、納品し、ほぼ一定の年間粗利益を確保します。このルートセールスでは、
顧客が成長発展している場合は注文がありますが、顧客自体が低迷すると自社も売上ダウンになるのです。
昨今の多くの中堅中小企業がこの収穫逓減の状態に陥っております。
これを打破するには、次のような営業行動が必要です。
こうした営業活動の生産性を向上させるのが課題です。
ベテラン営業マンによく見られるのですが、既存顧客にのみ頼っていますと、相手担当者との人間関係のみで売上・粗利益を確保するようになります。
この状態に満足していますと、次のような現象が起こってきます。
ルートセールスの生産性を上げるには、
- 顧客は顧客管理リストにより、動向・有率・注文頻度・訪問回数等、顧客状況の把握と訪問履歴が記録されねばなりません。
- 営業マンは営業日報に時刻目盛り入りの行動計画と記録、顧客ニーズ発掘、問題発見、顧客との宿題・約束、ライバル動向、自己のヒラメキを記載し、上司→経営者に提出します。
- 営業日報には、その日の目的(ゴールという)、訪問件数、平均商談時間、移動時間等生産性把握データを記載せねばなりません。
- サンプル準備や提案企画書の作成など提案力の強化を図らねばなりません。
新規見込客を対象とする営業は、顧客ニーズに合わせて商品を販売するスキルが要求されます。
同時に、営業活動の高い生産性が要求されるのです。営業活動の生産性というと朝早く飛び出し、
できる限り多くの見込み先を回ることを実践するということではありません。
事前にシナリオを立て効果的に活動し、短期間に成約に持ち込むことです。
生産性とは単位時間当たりの粗利益額ですから計画的に、営業機能を発揮し、シナリオ通りにステップの目標を達成して、 最終プレゼンテーション・ステップにより、成約を得ることです。
この一連の営業活動の生産性は測定されなければなりませんし、測定するために数値化した指標が必要です。 この指標がセールススピード指標です。
セールススピードとは最初に見込客を訪問(初訪という)した時から成約に至るまでの日数です。 また、その間の訪問回数です。効果的な営業活動をする営業マンはこの日数も回数も少ないのです。
ですから、セールススピードを営業ステップ毎に測定します。この結果、どの営業ステップで日数や
回数がかかっているかがわかり、セールススピードの改善で営業活動の生産性は倍増します。
未熟な営業マンであれば「初回面談」から「ニーズ分析」の営業ステップに上がれないことも起こります。
案件によっては、ベテラン営業マンでも「提案」の営業ステップまで上がれずに足踏みすることもあります。
営業活動を要素に分解することにより、営業マン毎に苦手な営業ステップが浮かび上がります。
つまり、各営業マンは「どの営業ステップで、どの営業機能を果たせていないか」が明確になります。
そして、自分が克服しなければならない営業ステップと営業機能がわかれば、セールススピードの日数、回数を指標化し、標準値を設定するのです。
同時に営業チームとして、平均値を設定します。
この標準値、平均値と比較することにより、各営業マンのセールススピードに悪影響を与えた要因を分析するのです。
この比較分析により、なぜ目標値より、下回ったのか。その原因分析をし、生産性を低下させている自己の行動を直したり、不足スキルを補います。
また、営業チームとしてセールススピード比較分析を行い、検討することにより、互いの強み・弱みが明らかになり、
同行営業や普段の営業行動でのサジェスチョンが的確になります。
その上に営業機能やアクションの改善点も明らかになり、新たな営業機能やアクションの付加ができ、営業スキルの向上と共有化が行われます。
営業マネジャーにとっても部下指導と育成が容易となり、強い営業部隊ができあがるのです。
ある生産材加工メーカーでは、営業課長がリーダーとなり、営業の生産性向上と取り組んだ結果、
5名の若手営業マンがベテラン営業マンをしのぐ粗利益を確保できるようになったばかりか、提案営業のための営業機能が明確になり、
製品・サービスの用途や事例集といった営業ツールも充実し、アクションの工夫もなされて営業スキルが向上しました。
その結果、営業ステップを上がる日数・回数が減少し、営業マンの営業生産性は倍増しました。
営業チームとしての営業力を倍増するには、営業マン毎にバラツキのある営業スキルをレベルアップすることです。 このために有力な方策は、ベンチマーキング手法です。優れた営業マンの営業機能の発揮、
アクション・プラン内容を見習い、自己のスキルに取り込むのです。
ベテラン営業マン達が「俺達は先輩の背中を見てスキルを学んできたのだ」というかも知れません。
ベンチマーキングでは、営業ステップから営業ステップへ、ステップアップのための営業ツールや仕掛け、
営業機能での顧客の関心喚起するトーク(商談会話)やアクションが見習う対象です。
即ち、文字表現や演技で表すことにより、自分のスキルに取りこむことができます。
営業活動に対して科学的な分析をすることによって、優れた営業マンの行動やその効果的な事前準備の内容が目で見てわかりますので、
ベンチマーキングすることにより、レベルの高い営業スキルを自分のものにできるのです。
ベンチマーキングしたことが、実際に応用できるかどうか、営業ステップ・営業機能・アクション等が発揮されているかどうか、
実践さながらに想定企業や条件を記載したシートをもとに、シュミレーショントレーニング(ロールプレイング)を実演します。
このシュミレーショントレーニングを見て、助言や質問、「自分ならこのように商談する」と言ったことを討議し、
効果的なやり方の共有化を合わせて行います。
また、各自が顧客と営業マンを演じることにより、 顧客の気持ちを理解したセールス・トークができるようになります。 新しい営業ツールや自分の商談アイデアについても試して見ることができます。
営業ステップと営業機能で自分の課題が鮮明になったスキルについて繰り返して実演することにより、克服できるのです。
優れた営業マンは必ずしもベテランとは限りません。シュミレーショントレーニングで、
顧客の抱える潜在的なニーズを引き出すことの感性を得たり、商談の中で仮説に基づき「小出し提案」をできる感性を会得すると、
営業マン達は早く実践で試したいという気持ちがわいて来ます。
従来、営業スキルは漠然として伝承しがたいものでした。 このベンチマーキングは、営業ステップ、営業機能、アクションなどの要素に分解されて目で見て分かることにより、
5年、7年と経験によって生まれた営業の達人が1〜3年で実現するようになります。
なによりも、営業マネジャーは、部下指導と育成にセールススピード指標という生産性が測定できる物差しを
得ることにより、営業マンの克服すべき課題が明らかになり急速なスキルの成長をみます。
営業力の倍増が可能なのです。それを確認できるのが、シュミレーショントレーニングでもあります。
神戸の自動車販売会社もこのシュミレーショントレーニングを毎朝実施するのを日課として、 互いの優れたセールス方法の実演とベンチマーキングで、チームの成績は全国順位を上げて注目を受けています。
次回は
営業組織の生産性向上と営業マネジャーの役割について述べます。
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