明日を考える経営

- 経営者・幹部へのアドバイス No.14 -

お客様の本心はどこにある

 経営において、あやうい状況は、経営者が危険な段階に入っているという認識がないときである。イトーヨーカードーの鈴木敏文氏は絶えず、「お客さま側の気持ちに立っていない」ことを現場の具体例を挙げて、店員・社員に警告している。現場の店員・店長に至っては売上目標の達成があり、必死になって働いている。しかし、肝心なことを忘れているのだ。

 何のために朝早くから遅くまで店で忙しく立ち回っているか。それはお客様に喜んでいただくこと。つまり、主婦が家族のために、家庭の食卓や日々の生活に一所懸命、少しでもよい状態を作り、家族から「お母さん!今日の食事おいしいね」という言葉、ねぎらいがあったときに、「よかった」と主婦が心から満足する。それが再度、イトーヨーカードーに足を運んでくれることにつながる。お客様に真から喜んでいただき、この店で得をしたと実感していただくことが目的である。

 年末、大型スーパーは忙しい。稼ぎ時でもある。小さいことにこだわっている暇はない。店長も店員もてんてこ舞いである。
年末だけに売れる商品の一つに「もち(餅)」がある。慣れっこになっているが丸い餅が透明袋にパックされて飛ぶように売れている。わたしなどの子供の頃は近所数軒で餅つきが行われ、つきたての餅に与るのが無上の楽しみであった。
 鈴木敏文氏は、忙しいときに店頭で餅つきをおこない、つきたての柔らかい餅を売った。これは効率や利益の面では損かもしれない。しかし、お客様に本来のつきたての餅で正月を祝ってもらいたい経営者の熱い思いとサービスである。これは注目に値する、現場にいる社員が気づかないことだ。

 イトーヨーカードーでは現場マニュアルを作らない。現場マニュアルが不用と言っているわけでない。なぜ、マニュアルが必要か。それは今日入社した店員にもお客様に一定レベルのサービス水準を保つためである。しかし、千差万別の多数のお客様にタイミングよく、良いサービスをしようとすると、それは店員の共感性というか、お客様に心から仕えるという姿勢がなければ生まれない。本心がどこにあるかである。これを鈴木敏文氏は言っているのだ。これは良いモノ作りをしようという製造業でも全く同じである。お客様に粗悪品、未熟品を出してよいわけがない。
 
 経営者は、社員が一所懸命に働いてくれていることは感謝なことだ。心の中ではありがたいと思っている。しかし、あやうい状況というのは社員の思いが本質から離れているときである。そうした社員に軌道修正を図るのが経営者である。それがなければ、企業は危険な段階に入っているのだ。
(2005.12.2 長谷川好宏)
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